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TECHNO-NET コラム

博物館めぐり@

木材・合板博物館 
木場〜新木場散策とともに

<主な内容>

木場から新木場へ    木材・合板博物館   木材と風土   合板とは

合板材料          合板と接着剤     木材と親しむ



木場から新木場へ

東京・木場は江戸時代から木材を扱う街として知られていました。火事の多かった江戸時代にあって、建築用資材としての木材を一手に扱っていました。

 木材の運搬はもっぱら水運が利用されました。江戸・東京、特に木場のある下町は運河が縦横にめぐらされていました。水運を利用して集められた木材は、貯木場に浮かべられました。浮世絵などでもよく見る風景です

林清親 武蔵百景乃内 深がわ木場

かつての木場、貯木場

 

 木場の木材集積地としての役割は1969年に終焉を迎えます。新たに作られた新木場に木材業者が移転、広大な貯木場跡は、その後、木場公園となりました。

 新木場には新たに作られた広大な貯木場が作られ、主として海外から輸入されて大量の木材が水中に保存されていました。木材関連の工場も多数設立され、木材関連の多くの業者が集まってきました。木場との大きな違いは、そのほとんどが海外からの輸入木材であったことです。

 現在、海外から木材が原木として輸入されることはなく、新木場の貯木場は空っぽです。工場もなくなり、現在は卸業者の事務所や倉庫があるだけで、かつてのにぎわいは感じられなくなっています。


木材・合板博物館


 木材・合板博物館は、日本に合板が誕生して100年を迎えた2007年10月、新木場に設立されました。新木場タワーという、新木場では最も高い建物の3階、4階にあります。

日本は、森林に囲まれた国で、樹木に対しては触れる機会も少なくないのですが、木材となるとどうでしょうか。新築の家でも、柱から木材を使うことは少なくなりましたし、かつてのように大工さんの建前風景を見ることも少なくなりました。なによりも,材木屋さんを見ることも少なくなりました。

木材と風土


地球環境を維持するために、あらためて森林の価値が見直されています。日本は、森林資源が豊富で、様々な形で、森や林の資源を利用してきました。家屋はもちろん木材ですし、炊事、暖房の熱源としての利用など様々です。また、日本の農村の生活は、里山の有効利用と切り離せません。また、高温多湿の日本にあっては、森林は水を蓄えるダムの役割をし、洪水や土砂崩れなどの土地の保全にも有効な働きをしています。このためには、森林の管理、手入れが必要になりますが、現在は、かなり危機的な状況にあるようです。

 

 日本の重要な資源でもある森林をいかに管理し、有効に利用するかは、今後ますます重要になります。木材・合板博物館では、木材に親しんでもらうことで、森林資源の活用による温暖化防止や、安らぎのある暮らしの創造を行うなど、自然と人が共存共栄で豊かな社会づくりに貢献することを目指しています。

合板とは

丸太をダイコンのカツラムキのように薄く剥いたもの(単板=Veneer ベニヤ)を乾燥させ、それに接着剤を塗布して貼りあわせたもので、このときそれぞれの単板の繊維方向(木目方向)を1枚ごとに直交させて、基本的に奇数枚積み重ねます。

 
各種合板                    合板の用途

木材のすぐれた特性である、軽量、切断・釘打ちが容易、熱伝導率が小さく比熱が大きい、音や振動の吸収性がある、柔らかで温かみのある感触がある、などをすめて備え、さらに木材のもついくつかの欠点を補正して、木材よりも強い・幅広い・伸び縮みの少ない優れた材料としたのが合板です。用途に合わせて、様々な合板を作ることができ、われわれの日常生活では、様々の場所で使用されています。住宅用、家具用、展示装飾用、コンクリート型枠などの建築用資材をはじめ、その用途は挙げるときりがありません。

合板の歴史

 日本では、1907年(明治40年)、名古屋の浅野吉次郎が独自に開発したベニヤレース(丸太をカツラムキして単板を作る機械)を実用化したことに始まります。創成期は、大豆グル―、ミルクカゼイン、膠などの接着剤を用いてベニヤチェスト(茶箱)用、楽器用、家具用に使われました。大きな転換点となったのが、1950年頃から尿素系の接着剤が開発されたことです。これにより飛躍的に接着性が向上し、用途が大幅に広がりました。

 合板に使われる様々の木材 太いものから細いものまでさまざまです。


合板材料


 日本では、1920年頃から、ラワン材が東南アジアから輸入され、原木として利用されてきました。しかし、現在では熱帯雨林保護のため、原木樹種の転換が行われています。

 そこで重要になるのが国内産樹木の利用です。木材には、広葉樹と針葉樹がありますが、合板材料としては、主として広葉樹、それも成長の速い輸入木材が使われてきました。太い丸太であれば、これまでの丸太の中心部にスピンドルを設置し、丸太を回転させて単板を得ることができます。しかし、この方式では、国内の針葉樹をうまく単板にすることができません。また、針葉樹には、年輪部分に密度の差があり、それが強度に影響するなど、従来の単板用広葉樹とは違った難しさがありました。

 
外周駆動方式の原理                 合板用木材の輸入推移

特に、比較的細い国内の針葉樹を利用するには、新しい方式のベニヤレースが必要です。スピンドルを設置するのではなく。雁木ロールというものをつけ、外周駆動方式とすることで、この問題をクリヤすることができました。この機械は、周南製作所の長谷川克次氏が開発したものです。博物館には、小型の外周駆動方式の機械があり、実際に単板を作成する様子を見ることができます。

 国産木材の使用は、こういった装置の実用化によって大幅に増えていますが、合板全体の生産量のなかでは、まだまだ少ないのが現状です。これを増やすことが、日本の森林資源の保護・育成にもつながり、地球環境の保護にもつながることが期待されています。

合板と接着剤

 合板が広く使用されるようになったのは接着剤の進展がありました。初期の頃の合板には、天然素材である、大豆グル―、膠などの天然接着剤が使われていましたが、合成接着剤である尿素樹脂(ユリア樹脂)系接着剤の開発により、接着強度が大幅に向上、合板の用途は急速に広がりました。現在も、合板では、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂系接着剤が使われていますが、これらの接着剤にはホルムアルデヒドが用いられており、シックハウス症候群の原因物質として問題とされました。

 現在、合板から放出される化学物質に関しては、JAS、JISで規格が定められています。また、ホルムアルデヒド以外の化学物質、VOC(揮発性有機化合物)に関しては、業界団体が自主規制を実施しています

 合板用接着剤

 一方で、シックハウス症候群の対象にならない夢の接着剤への期待も大きいものがあります。尿素系接着剤に代わる新しい接着剤の開発、実用化も進んでおり、あとえば、レゾルシノール系接着剤、フェノール樹脂系接着剤は、その優れた耐水性から、構造用途への合板への適用を広げてきました。しかし、これらの材料もまた、石化資源によるものです。

 初期の頃は、天然素材の接着剤が使われてきましたが、天然素材で、石化資源由来の接着剤ができないかというのが、現在の大きなテーマとなっています。

 そこで大きなヒントとなるのが、木材そのものを構成する材料であるリグニンです。細胞同士を接着する働きをする物質ですが、これまではあまり利用されてこなかった材料です。リグニンをベースとした新しい接着剤の開発が期待されています。リグニンを合板用接着剤として利用できれば、合板はすべてが天然素材でできることになり、環境への負荷はさらに少なくなるはずです。
 


木材と親しむ


 木材・合板博物館のもう一つの狙いが、木材、合板に親しんでもらうことです。

 博物館館内には、ものづくりコーナーがあり,夏休みを中心に木工教室を開催しています。また、地域の小学校では、博物館が見学コースになっており、江東区の小学生は、一度はここを訪れ、見学とともに木工体験をしているとのことです。

 単板を貼りあわせて合板を作るホットプレスを実際に使ったり、合板を打ち抜いて木製のオモチャを自分でつくり遊ぶ、この体験は貴重なものとなるでしょう。

 訪れた日は、次の日の木工教室のために、松ぼっくりが用意されていました。

  
体験コーナーと 松ぼっくり


 新木場の街からは、かつてのにぎわいはなくなってしまいましたが、まだまだ木材にかかわる事業者もおいところです。現在の木材・合板博物館では、展示も手狭になっており、数年後にはさらに規模を拡大した新博物館の構造もあるといいます。

 最後の、この地がどんなところなのか、新木場タワーの17階にご案内いただき、かつての貯木場のあった広大な空間と、東京湾を見ました。高いところからみると、羽田空港も近いことがわかりますし。2020年の東京オリンピックの会場がどこで行われるか、などについても知ることができました。 (八代 啓一)

     
       新木場タワー17階からの東京湾と貯木場



木材・合板博物館

〒136-0082 東京都江東区新木場1-7-22 新木場タワ―3F・4F

TEL 03-3521-6600 / FAX 03-3521-6602